6/18 宝塚雪組「凱旋門」

 

作品が10年ぶりくらいの再演らしく、再演ものがあまり多くない宝塚だけに「どんな作品かなー」とわくわくしながら観劇。一緒に行った望海さんファンの友人はプログラムやポスターに不満ありげだったけど、見終わったあと、どちらを見てもとどういうものにしたらいいのか、番手なんかも絡めると難問だわ。

轟さん主演ものを観るのは「ドクトルジバゴ」に続いて2回目。その時は舞台上の姿があまりにも「男性!」だったのであっけにとられた記憶があり楽しみに観た。

 

オープニングの音楽、セット、ダンスどれも素敵で結構好みだった。

それにしても望海さんの声が劇場全体に染み渡っていて、ほんといい声だとうっとり。

もっといろんな歌を歌う姿を見たい。

ダンスも凝っていて、暗い展開の中だけに映える。音楽も耳に残りやすいものが多くて、歌詞もわかりやすくて好きな感じ。セットも美しい。

演出が派手でなく、キャッチーな音楽があるわけではないので一般受けはしないだろうけど、上田久美子先生の脚本がわりかし好きな人は楽しめるのでは?と思った。

 

お話自体は・・・一言で表現しにくい。

戦争が狂わせ、奪っていく人の人生となすすべもない中で賢明に生きる人のきらめきを観た。誰が良い悪いというより、翻弄されながらそれでもなお生きるしかない人生をどう捉え生きていくか問われているような。

 

戦争前夜のパリという状況を理解するのは難しい。でも「今暮れなずむ時」「戦いの予感」「黒い悲しみが広がる」と歌っている歌詞とメロディーが情景を説明してくれて物語に入っていける。亡命者の現時点での生活への不安や将来への絶望感、過去の挫折や苦悩、苦痛はいろんな登場人物の台詞や行動から、想像できる。

歌詞や人物の台詞だけである程度、情景や人物の心情は理解できるのに謎のストーリー説明台詞がちょこちょこ入っていて、なぜか冷静に「それ言わんでも分かるよ・・・」と何回が引き戻された。再演ものならもう少しブラッシュアップされそうなものだけど。

 

轟ラヴィック

最初50歳もほど近い年齢なのかなーと思ったけど、ボリスとのやりとりを聞いていたら思ったより若そうだった。30代なのね、きっと。声がかすれ気味でそれ自体は役柄と合っててそんなに気にならなかった。ただ歌うとほんとに厳しくて、聞いていてひたすらはらはらした。現実に引き戻されるね・・・反対に真彩ジョアンの声が艶っぽくて、でも澄んでいて魅力的な声。ジョアン自身を表す声だった(蠱惑的なのかと思えば、純粋でひたむきで無垢なようにも見える)

アメリカの富豪の女性とのやりとりは過去に関係があったけど、既に終わっていることがはっきりと分かる雰囲気。短い場面なのに、過去も未来も見えるのはすごい。

復讐をやり遂げる一連の場面、ジョアンの最期の場面も息をのむのもためらうような重厚さで観ているだけなのに、消耗した。ジョアンを失った慟哭は聞くに堪えないほど。

収容所に向かう彼はどこか晴れ晴れとしていて、(考えてみればジョアンに出会った時「生きることが辛い時この人(ジョアン)に出会った」と歌っていて、ラヴィック限界の人だったんだよね、彼女に出会って、復讐も果たした、でも今彼が望むことがこの世界にはなくなっちゃんだな)戦争が奪っていく人の人生を考えると胸が締め付けられた。

 

真彩ジョア

ジョアンは女性から見ると共感とか同情がしにくい女性に見えるけど、「次の男に乗り換えるの早くない?!」とはならなかった。

真彩さんの演じ方や声はもちろんつかの間のバカンスの時の「俗っぽいだと分かっている」とか「パリでの暮らしには静けさがなさすぎ」という台詞が戦争の影を嫌ほど感じさせて、「そうだよね、誰もがラヴィックみたいに自分は幸せな方だ!なんて思えない」「何か少しでも光を感じたい」と思うよね~と。「宝石いっぱいのトランク盗んで♪」なんて歌う姿はかわいらしすぎて、そりゃみんな好きになるわなと納得。ラヴィックの機嫌が直るのも当然でしょ。

そのあたりからジョアンの行動も突飛押しもない身勝手というより、人間のある種の真実の姿だよなと納得して見ていた。

臨終の場面で「愛している時に死ぬなんて不思議」というニュアンスの台詞があって??だった。ただ、ラヴィックとの会話で「愛というのはその人がいなければ生けていけないということ」と言っていたことを思い出すと、彼女はラヴィックを愛していたんだなと問題と解答がピタッとあったような気持ち。ラヴィックを愛しているけど、実際生きていくにはお金も安心も必要で、その瞬間瞬間の気持ちに素直に生きている人だった。

 

作品自体にはいろいろ考えさせられたり、美しいと思える部分はあるけれど、万人受けするものではなかったと思う。大劇場でやるにはもう少し全体に受け入れられる演出や役者の使い方があったのかな。望海さんファンと一緒に観に行ったので、余計に感じたのかもしれないけれど、そろそろトップコンビが幸せにほほえみあえる作品も見たいな。

 

追記

観に行った日がたまたま大阪で地震があった日で13時スタートが14時になった日だった。阪急電車もJRもすべて止まっていたのでお客さんの入りもまばら。

前も後ろも横の列もすかすかという異常な状況で観た。戦争前の重苦しい、楽しみの見いだせない時代という設定と余震におびえながら、なすすべのない状況が重なって、より舞台がシリアスに感じられたのも事実。最後まで熱演してくれたジェンヌさんたちに感謝でした。