「メリー・ポピンズ」 梅田芸術劇場 5/23 6/1

あらすじ

1910年のロンドン、チェリー・ツリー・レーンに住むバンクス家。一向に子守が居つかないこの家に、メリー・ポピンズが舞い降りてくる。魔法で部屋を片付けたり、カバンから何でも取り出したり不思議な力をもつメリーと、煙突掃除屋のバートと過ごす素敵な毎日に、子供たちは大喜び。一方、父ジョージは銀行でのある融資をきっかけに、苦境に立たされてしまう。しかしこの出来事をきっかけに、バンクス家は家族の幸せを見つけ、それを見届けたメリーは、また空へ帰って行くのだった。

 

濱田メリー・柿澤バート回(5/23)と平原メリー・大貫バート回(6/1)の2回観劇。

 

原作も映画も見たことがなく、映画ファンの友人に誘われて一回目の観劇、また違う友人から誘われて再びと今回は自分発信ではない体験だったが、大満足のミュージカルだった。

完全なる自分基準で、見に行ってよかったと心底思うミュージカルは次の日朝目覚めて、そのミュージカルの曲が自然に口ずさめちゃうというのがある。「メリーポピンズ」は口ずさめる曲が多すぎて自分のことながらびっくりした。

観劇から日を経た今でも「♪なにもかもパーフェクト♪」「♪お砂糖一さじあれば♪」「♪スパカリ♪」「♪星に手をのばすよりも♪」とメリーの歌うフレーズはもちろん、それ以外の曲もときおり頭に流れてくる。そのたびに観劇している時の幸せな気分がふとよみがえってくる。

子ども向けの作品なのかなと思いながら観劇したが、大人の方がより刺さるのでは。大きな挫折があって明確に何かを失ったわけではないではないけど、このミュージカルを見るとふと自分の過去を振り返って、だらだらと気づかないうちにほんの少しずつ、でも確実に失ったものを考えさせられた。

この考えさせる働きも、劇的な一つの言葉によってという訳ではなく、一曲ずつ一場面ずつ進んで行く中でゆっくり考えさせてくれる(しんみりとはせず、わくわくする高揚感とともに考えられた、舞台の色彩、ダンスの振り付け、演出すべてが高揚感につながっていた)

そして、考えさせられるだけど、感傷的に自分の世界に沈んでいくんじゃなくて、いつもメリーが助けてくれる。舞台の上ではバンクス家のこどもたちがメリーに救われ、学び成長していくけど、観客もメリーに救われる(少なくとも私は)メリーの歌を通した言葉やこどもたちとの会話、そのすべてが私を癒してくれて、力をくれた。

 反対にメリーは孤独だよね、メリーがマイケルと別れるシーンはメリーの孤独を思って涙が出そうだった。

 

物語の後半でミスバンクスが自分にできるのかと迷うシーンがある。迷う理由をこどもたちに聞かれて「女だから」と彼女が言う部分が今回とても辛く胸を突いた。自分が「女だから」という理由で嫌な思いをした確実な記憶はないけど、この台詞が刺さったということは、意識には上がってきていないけど、自分の中にその種があるんだと発見した。少し苦い。

それすらもメリーは「♪どんなことでもできる」と払ってくれたけど。しかもこどもたちも一緒に。そして畳みかけるように「♪星に手を伸ばすよりもあなたが空へ」と力強く伝えられる。

今回はこの一連のシーンがもっとも印象に残った。

 

自分の状況に応じて演劇から得られるものは都度都度変わる気がしているが、今回は自分のタイミングと公演のタイミングがきっといい具合に合ったんだろう。とても幸せな時間を過ごせた。

 

せっかくWキャストを見られたので

濱田メリー・柿澤バート

メリーがとにかくすべて安心!歌、ダンス、お芝居 なにもかもパーフェクト!

バートも歌が上手。お二人とも台詞、歌とも聞きやすい(それだけでもう大好き)

二人の関係はバートのメリー大好き度合いが高い。

公園で最初に出会ったときのメリーへの呼びかけでひとつで、大好きさがありありと伝わってきた。一言で自然とこちらまで伝わってくる。

それ以降の場面もバートのメリー大好き感が嫌みなく伝わってきて、メリーも嫌みなく受け流してて、二人の関係がほんとに自然。

バンクス家でのメリーはほんの少し人外感がある台詞回しだけど、それについて意識することはなかった。

バンクス一家との別れはもちろん寂しいことなんだけど、濱田メリーはいつか来るべきこととどこか達観した感じ。

 

平原メリー・大貫バート

伸びとはりに満ちたメリーの歌は耳福。声のはりはメリーの曲にさらなる説得力を与えるようだった。

 二人の関係は(濱田・柿澤ペアと比べると)バートがメリーの少し年上のお兄さんのように見えた。兄弟という意味ではなく、彼女のすることをそっと側で見守っているという意味で。もちろんメリーのことは好きだけど、柿澤バートのような「メリー大好き!!!」が全面に出る感じではない。こういう二人も見ていて心地よい。

メリーの言い回しは濱田メリーよりもさらに特徴的。それが気になるかと言われるとそうではなく、平原メリーの特徴だよねという印象。特徴的なんだけど、聞き取りにくいわけではない。そして「♪スパカリ」と時には発音が良すぎでびっくりした。

大貫バートの歌でというより体を使って感情を表していて、それはそれで彼らしさだと思う。身体能力に驚かされた。というか、素人目にもダンスのキレが他の誰とも違う。「ロミジュリ」「梅棒」「ビリー・エリオット」で見たことがあったから、既視感があるはずなのに、いつも誰と踊っても、誰とも違うきらめき。歌声を聞くのは初めてだった(柿澤さんと比べたらもちろん・・・・だけど)まあ、全体的にそんなに支障はなかった。

バンクス一家との別れでメリーがほんとに寂しそうで、自分に行かなくちゃと言い聞かせて出て行った感じで、その部分では濱田メリーより人間らしいというか、自分の感情に素直なメリーだなと。

濱田メリーが完璧な印象、一方平原メリーはいじらしさをもったチャーミングな印象だった。どっちも好き。